ベルギー陶芸便り

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ブリュッセル・プルスギャラリー

ここのところ、私の一番の憧れで
ベルギーの現代陶芸ギャラリーの中でも
最も質の高い展覧会をするプルスギャラリー(ブリュッセル)
に行ってきました。

 褒め称えてはいるけれど、実はこのギャラリーに
実際に足を運ぶのは今回で2回目。
毎回ウェブサイトで作品チェックはするものの
根っからのブリュッセル嫌い(というか恐怖症)により滅多に
ブリュッセルに足を踏み入れることはないのです。
 しかし今回の展覧会はオランダ人陶芸家Wouter DAMさん。
実現はしなかったものの一度、Stage(研修)をお願いしたこともあって、
明日の最終日を目前にして見に行かないわけには行かなかったのです。
彼は、現在私が作品に取り入れようとしている要素を持った
作品シリーズを制作していて、
さらに今回はサイトを見る限り、前まで作っていたシリーズよりも
洗練された感じで、もっと私好みになっています。
研修をお願いした際、ご本人からも
「ベルギーで近々展覧会をするので是非観にきてください。」
とお誘いをいただいていたので、この機会は逃せないな、
と思いつつギャラリーに向かいました。

 到着したのが遅い時間で、最終日の前日ということもあってか
ギャラリーのお客さんは私一人。
心置きなく、あっちから、こっちから、上から下から。
作品の空気を楽しみつつ観て回り、作り方や素材の予想を立てたり
接着部分の観察をしたり。

 Wouter DAMさんは、轆轤でパーツを作った後
曲線の立体造形に作り変えるオブジェを作っています。
 以前の作品に比べて、今回のものは垢抜けたというか
動きのある軽やかな作品に生まれ変わっていて
観ていると心が動き出すような、喜び躍りだすような
感じになりました。
ギャラリストも同意見のようで、以前よりも興味深い作品群
に変わってきたように思います。

 同時に展示されていたドイツ人陶芸家Karin BABLOKさん、
私は初めて見る作家でしたが、彼女もまた磁器土を轆轤挽きし
それらを加工した作品を作っていて、とても繊細なのに
力強いラインと造形で、これまた心動かされるものでした。

 彼女は、アートインレジデンスIN瀬戸で日本に滞在していたこともあるようです。
併設されている資料の中に日本語のインタビュー記事も見つけました。
ヨーロッパ的な雰囲気の作品でありながら
日本人にすんなり受け入れられそうな作風で、文中では”逆輸入”という言葉
で表現されていました。
ドイツではすでに、同世代の陶芸家を代表するような立場にいるようですが
今後、世界的にも注目されていく作家なのでは?と感じました。

 今回の二人の陶芸家。扱う素材は陶土と磁土と異なるものの、轆轤を使った
造形物を作り出す作家達で、新しい轆轤の可能性を見出せる気がしました。
 私が日本で勉強してきた轆轤の技術と、ベルギーに来て学んだオブジェ制作
が融合できるという道を示唆しているかのようです。

 今回は、久々に心を動かされたこの二人の作家、作品群との
出会いのほかに、またすばらしい出会いもありました。

 このプルスギャラリーのギャラリストとゆっくり話しをすることが出来たのです。
このギャラリーのオーナーは、デンマーク人女性。
デンマーク語、英語に加えフランス語オランダ語も操ります。
自身もデンマークで6年、ベルギーで2年と陶芸を学んだ陶芸家で
6年前の記念すべきプルスギャラリーのオープニング展覧会が
彼女の作品展だったそうです。
(現在はギャラリストに転向し、作品制作は行っていないとの事。
 無理を言って、彼女の作品の写真を見せてもらいました。
 北欧的デザイン、カラフルポップな巨大カプセル、
 レゴブロックを思い起こさせるようなオブジェ。
 赤、青、オレンジと写真を見るだけでは本当に陶器なのか
 目を疑うような鮮やかな色使いで、特別に工業用釉薬を
 使用したとの事。カプセルの印字部分はデカルコマニー
 (上絵転写シート)を使い、トレードマーク?のリス
 マークがとってもキュートでした。)
 彼女自身のセンスが良い為、このギャラリーで紹介される
作品が常にハイレベルで洗練されているのだと実感しました。

 「何でも質問してください。」とのお言葉に甘えて
二人の作家の技法、素材を尋ねたり
どのようにして企画展の作品を選んでいるのか
はたまたベルギーにおいての陶芸の未来についてまで
語ってしまいました。
 彼女のギャラリーでは、基本的に常に2人の作家を同時に
扱うようにしていて、前方ショーウィンドウからも見える部分に
有名作家、後方部分に新人作家を持ってくるとの事。
 さらにずうずうしく、自分の作品集を持って来たら
見てもらえるか尋ねてみると
「いつでも持ってきて、とても興味があるから歓迎するわ。」
と、とても温かい言葉。

 新人作家を扱う、といってもこのギャラリーのクオリティーは本当に高く
大抵はある程度すでに活躍されている作家さんたちです。
しかし過去に一度だけ、本当に人生で初めての第1回目の個展
という作家も扱ったことがあるそうで、そのときはギャラリストである
彼女にとってもエキサイティングだったとの事。

 ベルギーで陶芸を学ぶ身である事を打ち明けると
話はベルギーの陶芸の未来の話まで発展し、あまりにも気さくで
話のしやすい彼女の人柄に甘えて、自分の将来の相談
までしてしまいました。

 ベルギーはもともとヨーロッパの中でも陶芸発信地とはとてもいえない
陶芸後進国です。(発展途上とも言い難い。)
彼女も、「オランダはまだベルギーよりはましだけど、
陶芸をするならやはり、イギリス、北欧、ドイツあたりよね。」
との事。
 私に、「なぜあなたはベルギーで陶芸を?」と尋ねつつ
彼女もデンマーク人でありながらベルギーで陶芸ギャラリーを
開いている身。 似たもの同士?
とでも言うかのように二人で顔を見合わせて笑ってしまいました。

 ベルギーでの陶芸を学ぶ環境、特に美術大学の状況は
年々縮小傾向にあり、悪くなるばかりで
「ギャラリーも、美術学校も運命共同体。
 美術学校がなくなったら、新人も育たなくなり
 いい作品が生まれなかったら
 ギャラリーで扱える作品もなくなる。
 ますます陶芸離れが進めば
 お客さんもいなくなる…。」
 彼女も、現在のベルギー陶芸の現状を危惧しています。

ベルギーだって、日本のように大人の趣味としての陶芸教室は
どこも大盛況なのです。
 それではなぜ今、新人育成の専門機関に閑古鳥が鳴いているのでしょうか?

 話は少しそれますが、美術大学での教育についてのシンポジウムに
先日参加してきて、そこで少しそれに関わるような話題が出ました。
パネリストはオランダの二つの大きな美術専門機関の学長で
いわゆるアートインレジデンスとして利用できるような
学校とはまた別の枠の機関です。
もちろんそれらの機関は「アーティスト」として参加するものであって
一から学ぶことができる施設(学校)とは全く異なるのですが
彼らの意見としては、なぜアートにディプロマが必要なのか?
学士、修士はまだいいとして、アートにとって「ドクター」という
称号は何を意味するのか?とした上で
自分達の施設の特徴を説明していました。
 今ここに来て、(特にベルギーにおける)美術大学の意味を
見つめなおす時期に来ているのかもしれません。

 ギャラリストの彼女は、プルスギャラリーのオーナーである傍ら
ブリュッセルのラ・カンブルでも教鞭をとっているそうです。
 私の通うアントワープ王立アカデミーの陶芸科が今年の私の学年の
卒業を持って幕を閉じること、同じくアントワープにあるセントルーカス
の陶芸科も同時に閉鎖する事実に彼女はたいそう驚き、
ますますベルギーの陶芸の未来を心配していました。
というのも、ラ・カンブルでも状況は似たようなものがあり
今のところ閉鎖するとの噂はないものの
全学年合わせても10人しか学生はいなくて
淋しいばかりとか。

 また、私は来年に卒業を控えベルギーで陶芸を続けていくことを
決意したところ。このベルギーにおいてどうやってアプローチ
していけばよいのか?というのは最近の最大の関心事です。
 陶芸専門のギャラリーを経営する彼女にとっても
状況は決していいとはいえないようですが、最後には
「私達が、立ち向かって切り開いていきましょう!」
と笑顔で送り出してくれました。

 日本にいたときは、ギャラリーを訪ねると、時折作家さんや
ギャラリーオーナーとお話する機会があったり、
時には、人生相談をしたりすることもあったのですが
今回ベルギーに来てこのように心のままに話が出来たのは
初めてのことです。
ベルギー人だから、とかデンマーク人だから、ということではなく
きっと彼女の人柄によるものなのだと思いますが
こんなに素敵な人もいるんだなぁと
今回はすっかり、彼女のファンになってしまいました。

 いつかはこのギャラリーで発表できれば、と
大きな目標をひそかに胸に刻んで。
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by rihaya | 2006-11-21 05:07 | 陶芸徒然
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ベルギー在住陶芸家 津田梨早の活動・制作日記


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